相続と遺言の法律知識

 

1 相続

(1)相続の開始

① 死亡

人が死亡すると相続が始まります。相続問題が発生するのは誰かが亡くなった場合であることがほとんどです。

 

死亡の事実は,届出義務者(①同居の親族,②その他の同居者,③家主,地主又は家屋もしくは土地の管理人)によって,死亡の事実を知った日から7日以内に届けることが義務づけられています。

 

その他の親族,後見人,保佐人,補助人又は任意後見人も届出をすることができます(戸籍法86条以下)。

 

届出によって死亡の事実が戸籍に記載されることになります(戸籍法15条)。

 

② 失踪宣告

珍しい相続開始原因として失踪宣告というものがあります。

 

失踪宣告には普通失踪と特別失踪という類型があります。

 

普通失踪というのは,不在になった人の生死が7年間明らかでないケースです。行方不明になった人と全く連絡がとれずに7年間経過したということですね。

 

特別失踪というのは,戦地に臨んだ場合,沈没した船舶にいた場合その他死亡の原因となる危難に遭遇した人の生死が1年間明らかでないケースです。東日本大震災等の大規模災害によって行方不明になった方も対象になります。
(ただ,東日本大震災の行方不明者の方のケースでは,特別失踪の1年の期間を待たずして,死亡届が受理されるという市町村の扱いがなされたようです。)

 

こうした場合に,利害関係人が家庭裁判所に請求することで,家庭裁判所が失踪の宣告を行います。これによって生死不明の方は死亡した扱いとなって,相続が始まります。

 

③ 認定死亡

水難,火災等によって死亡したことが確実な場合に,取り調べをした官庁又は公署が死亡の認定を行って,市町村長に死亡の報告をするというものです(戸籍法89条)。
役所が死亡を認定するという点で,失踪宣告とは違います。

 

(2)被相続人ってなに?

要するに先ほど説明した,①死亡,②失踪宣告,③認定死亡によって財産を分ける必要が生じた人のことです。
一般的には「亡くなった人」のことと考えておけば十分です。

 

(3)指定相続分ってなに?

指定相続分とは,相続人に対する遺言によって定められた相続分又は遺言で委託された第三者が定めた相続分のことです(民法902条)。
こうした指定がある場合は,民法で定められた法定相続分ではなく,指定による相続分によって相続が行われることになります。

遺言がある場合は遺言が優先する,ということですね。

 

(4)法定相続分ってなに?

指定相続分が定められていない場合は,民法所定の法定相続分によって相続が行われます。
法定相続分は次のとおりです。

ア 配偶者がいる場合

配偶者は必ず相続しますが,配偶者と共同相続人が誰になるかによって法定相続分は変わってきます。
① 配偶者と子が相続人の場合
・配偶者が1/2
・子のグループが1/2(子が数人いれば1/2を等分)
② 配偶者と直系尊属が相続人の場合
・配偶者が2/3
・直径尊属のグループが1/3(同順位の相続人が数人いれば,1/3を等分)
③ 配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合
・配偶者が3/4
・兄弟姉妹のグループが1/4(同順位の相続人が数人いれば,1/4を等分)

 

イ 配偶者がいない場合

この場合は共同相続人が均等に相続するのが基本です。

例外として,片親が違う兄弟姉妹の場合の相続分は、父母双方同じ兄弟姉妹の2分の1になります。

 

2 遺言

(1)遺言とは

遺言とは,亡くなった人の最終的な意思が,一定の方式のもとで表示されたもののことをいいます。
「お世話になった人に財産を残したい」「この先祖代々の土地は是非とも長男に渡したい」
そういう思いを実現するために,法律は遺言に強い効力を与えています。

 

(2)遺言で決められる事項(遺言事項の限定)

ただ,なんでも遺言で決められるわけではありません。
法律では,遺言ができる事項は次のとおり限定されています(遺言事項の限定)。
① 身分関係に関する事項
認知,未成年後見人の指定など
② 相続の法定原則の修正
相続人の廃除,相続分の指定,分割方法の指定,特別受益の持ち戻し免除など
③ 遺産の処分に関する事項
遺贈,相続させる遺言,遺言信託など
④ 遺言の執行に関する事項
遺言執行者の指定など
⑤ その他
祭祀主宰者の指定,生命保険金受取人の指定・変更など

 

(3)遺言の種類

遺言には,普通方式の遺言が3種類,特別方式の遺言が4種類あります。

ア 普通方式の遺言

① 自筆証書遺言
遺言者が,遺言書の全文,日付及び氏名を自分で書き,押印して作成する方式の遺言です。

【メリット】
・誰にも知られずに簡単に遺言書を作成できる。
・費用がかからない。

【デメリット】
・決められた方式が厳しい。方式不備のために無効になってしまう危険性が高い。
・偽造・変造される危険性が大きい。

 

② 公正証書遺言
遺言者が遺言の内容を公証人に伝えて,公証人がこれを筆記して公正証書による遺言書を作成する方式の遺言です。「内容」も公証人によって作成してもらう方法ですから,最も確実な遺言作成方法です。
公証人は,公証人法に基づき,法務局又は地方法務局に所属して,公証人役場で勤務する公務員です。元裁判官・元弁護士の方も多いです。
【メリット】
・公証人が作成するので遺言の内容が適正になる。
・遺言意思が確認できるので,無効等の主張をされる可能性が少ない。
・公証人が原本を保管するので,破棄・隠匿のおそれが少ない。
・家庭裁判所の検認手続が不要。
【デメリット】
・公証人役場にいく手間がかかる。
・費用がかかる。
・証人に内容が知られてしまう。

 

③ 秘密証書遺言
遺言者が遺言内容を秘密にした上で遺言書を作成し,公証人や証人の前に封印した遺言書を提出して遺言証書の「存在」を明らかにすることを目的として行われる遺言です。しかし,手間がかかる割には内容までは担保されないので,それほど利用されていないのが実情のようです。
【メリット】
・遺言書の内容を秘密にしたまま,遺言書の「存在」を明らかにすることができる。
・自書する必要がないので,ワープロ等での作成もできるし,他人に書いてもらうこともできる。
【デメリット】
・公証人役場に行く手間がかかる。
・費用もかかる。
・内容の確実性までは担保されない。
・第三者に内容を知られてしまう危険が少なくない。

 

イ 特別方式の遺言

文字通り特別の場合に行われる遺言ですから,通常使われることは少ないです。
いずれも遺言者が普通の方式によって遺言ができるような状態になった時から6ヶ月生存している場合は当然に効力が失われます。
① 死亡危急者遺言
病気やその他の理由で死亡の危急に迫った人の遺言です。
② 伝染病隔離者遺言
伝染病のため行政処分によって交通を断たれた場所にある人の遺言です。
③ 在船者遺言
船舶の中にいる人の遺言です。
④ 船舶遭難者遺言
船舶の遭難によって死亡の気球に迫った人の遺言です。

 

(4)遺言の作成方法

ア 遺言の方式

遺言の効力が生じる時点では遺言者はいません。ですから,遺言が本当にその遺言者の意思を表示したものかどうか,というのは非常に重要です。そのために,法律は遺言の方式を厳格に決めています。
この方式に不備があると遺言は無効になってしまいます。
遺言の作成にご不安な場合は弁護士への相談をお勧めします。

 

イ 具体的な作成方法

普通方式の遺言の作成は次のようにおこないます。
① 自筆証書遺言
・遺言者が全文を自書で書く。
←コピーやワープロ作成ではだめです。

※ 平成31年1月13日から、遺言に添付する相続財産の目録については、目録の各頁に署名押印することを条件に自書不要になりました(ワープロ作成、他人に依頼しての作成、登記事項証明書を添付する等の方法でも可となりました)。

・日付,氏名を書く。
・押印をする。
←署名の隣でなくてもよい。指印も可。
② 公正証書遺言
遺言内容をある程度確定させるのが前提です。その上で公証人役場に行きます。
公証役場では,
・公証人が証人2名以上を立ち会わせて,
・遺言者が,遺言の趣旨を公証人に話して伝えます。
・公証人が,遺言者の話す内容を筆記します。
・その上で,公証人が遺言者と証人2名以上の証人に読み聞かせます(又は閲覧させます)。
・遺言者・証人・公証人が署名捺印します。
これで公正証書遺言が完成です。
③ 秘密証書遺言
・遺言書を作成し,封をする。
・2名以上の証人とともに公証役場に行く。
・遺言者が,公証人・証人の前に封書を提出する。
・その上で,自分の遺言書であることを,その筆者の氏名・住所を伝えます。

 

3 遺留分とは

【相談内容】

先日母が亡くなったのですが,「お世話になった友人のAさんに遺産を全て贈与します」という遺言が出てきました。息子である私には1円も遺産が残されないのでしょうか?

 

【回答】

遺留分の限度で遺産をもらう権利があります。

 

【解説】

遺留分というのは,被相続人の財産のうち,一定割合が配偶者,子,直系尊属に最低限残されることが保障された制度です。兄弟姉妹にはありません。

 

 

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